彼女が手紙を書いた理由


青年(♂)
探偵事務所の所長。仕事以外のことはたいていおろそかになる面倒くさがり。色白細身。

少年(不問)
探偵事務所の所員。主に青年の身の回りのお世話をしている。世話焼き。

少女(♀)
依頼人の少女。青年へ手紙を送ったようだが。

使用人(不問)
少女の使用人。


※1:1:1で演じられる場合は、使用人は青年か少年の方と被り推奨です。
 気合で1:1でも演じることは可能かと。

※台本の時間は15分前後です。


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青年:
少年:
少女:
使用人:
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少年:おはようございます、先生!

青年:ん・・・ああ、君か。おはよう。

少年:あ、またごろごろしてますね?俺が18時間前に事務所を出たときと同じ場所にいるじゃないですか!
   たまには外に出たらどうです?

青年:相変わらず細かいねぇ君は。あのね、僕だってね、仕事があれば外に出るさ。
   だけど肝心の仕事がないんだ。仕事がないのに意味もなく外をうろうろできないよ。

少年:そんなこといってると体からカビがはえてきますよ、まったく・・・。
   ただでさえこの事務所、じめじめしていて陰気臭いんですから。

青年:どうにもこうにもここは立地がよくないようだね。どうしても湿気がたまってしまう。

少年:はいはい。それがわかっているなら、換気くらいしてくださいよ。・・・あ、そうだ。はい、手紙来てましたよ。

青年:僕に手紙?・・・仕事の依頼かな。

少年:それが、何の手紙かよくわからなくて・・・この封筒、宛名も消印も差出人の名前も書いていないんですよ。
   事務所のポストに入っていたから、ここあての手紙で間違いないとは思うんですが。

青年:どれ、かしてご覧。・・・ん、あれ?2通あるのか。

少年:はい。まったく同じ封筒みたいなんですけど・・・同じ人からでしょうか?

青年:普通は同一人物からの手紙なら、1つの封筒におさめるだろう。別々の人からではないかな?
   いやしかし、どちらも同じ封筒か・・・別の日に投函されたものとか・・・あ、いや消印はなかったんだったね。
   どちらも差出人不明かな?

少年:そうですねー。特に何も書いてないです。

青年:どれ、中身を確認してみるか。
   (手紙を確認する)・・・ん?ふうん・・・これは中々面白いな。

少年:仕事の依頼ですか?

青年:いや、違う。手紙・・・でもないんじゃないかな。何かの暗号かもしれない。
   こっちの封筒には4枚の便箋がはいっていて、こっちには5枚。
   共通しているのはどの便箋にもメッセージが1行ずつしか書いていないこと。締めの言葉が同じであること。
   内容に関しては・・・僕からはどう説明していいのかわからないな。

少年:どんなことが書いてあるんですか?

青年:読んでみるといい。あ、順序は乱すなよ?何か意味があるかもしれない。

少年:はーい。えーっと・・・「うたを歌うあなたを、南区で見かけたので手紙を書きました」?


少女:(1枚目)
   うたを歌うあなたを、南区で見かけたので手紙を書きました。
   わすれられないのです、あなたの声が。
   すけるような肌や青い瞳をしたあなたの姿ばかりを思い出します。
   おてがみお待ちしております。

   わかっていただけますよね?


   (2枚目)
   ここから見える景色は以前かわりありません。
   いろいろ考えてみましたが、やはり私はあなたにもう1度会いたいです。
   あさからあなたのことばかり考えてしまうのです。
   これは愛だと思います。
   ふるい愛は捨てます。

   わかっていただけますよね?


少年:筆跡を見ると、どうやら同一人物からのものみたいですね。
   先生、これってもしかして熱烈なラブレターじゃないですか?

青年:熱烈・・・ねぇ。恋文だとしたら、僕には随分病的にみえる。そもそも、恋文なら送る相手を間違えている。
   僕は歌を歌いながら南区を徘徊するほど酔狂ではないし、
   ご覧の通り肌もとても「透けるような」と表現できる状態ではない。瞳の色もご覧の通り黒だ。

少年:じゃぁ、いれるポストを間違えたとか?宛先も書いていないわけですし。

青年:・・・いや、宛名や宛先が書いていないからこそ、間違えていないのかもしれない。
   直接投函したということになるからね。少なくとも、何らかの意思をもってこのポストにいれたはずだ。
   まぁ、そもそも住所を間違えていたり、これが無差別に選んだ人に送っていなければの話にはなるけどね。

少年:・・・ねぇ先生。もしここのポストに意思をもって投函したってことなら・・・。

青年:仕事、ということになるね。

少年:やったじゃないですか先生!どれくらいぶりの仕事ですかね!?俄然やる気が出てきましたよ!
   ・・・ということは、この手紙はただのラブレターじゃなくて、他のメッセージでも隠れているんでしょうか。

青年:そうだね・・・僕はそう思いたいね。
   どちらも最後の紙に「わかっていただけますよね?」と書かれているということは、
   差出人は何かわかってほしいことがあるんだと思うよ。・・・どれ、ちょっと考えてみようか。

少年:うーん・・・でも、考えるっていっても、2通の封筒と1枚に1行ずつ書かれた便箋。
   そこに書かれているラブレターみたいな内容の文章でしょう?ここからは何も導き出せそうにないですけど。

青年:そうだねぇ・・・じゃぁまず、どうして2通にわけたんだろうね?
   だって、便箋1枚に1行ずつ書く事だけに意味があるのならば1通にまとめたっていいだろう。
   もしくは、1枚につき封筒1通ずつでもよかったはずだ。
   わざわざ2通にわけたことは、そこに意味があるんじゃないかな、と僕は思うんだけど、どうだろう。

少年:・・・別々、ってことなんでしょうか。
   こっちの封筒に入っているものとそっちの封筒に入っているものは違う、っていう意味とか。
   こっちはこっちで完結している文章で、そっちはそっちで完結している文章、みたいな。

青年:そうかもしれないね。じゃぁ次の疑問としては、何故便箋1枚に1行ずつ文を書いたんだろうな。

少年:それも意味があるから、ですよねきっと。

青年:そうだね。・・・それにしても、まるで散文詩だな。
   散りばめられた言葉からは恋文とはとれなくもないが、何度も読み直しても文章自体に意味があるとは思えない。

少年:ええ!?意味はないんですか!?

青年:あー、語弊があるかな。要するに、そのままの意味はないということだ。
   比喩的表現だったり、暗号みたいなものだと僕は思うんだけど。せめてヒントでもあればいいんだけどな。

少年:うーん・・・「歌を歌う」に何かヒントが・・・いや違うな・・・「肌」・・・「青い瞳」・・・
   「手紙を待つ」・・・「愛」・・・「古い愛」

青年:これだけの文章が書けるなら、もう少し整理すればちゃんとした文になるだろうけど、
   そうしないってことは文章の並びも関係しているのかもな。最初の方だけ平仮名というのも気になる。
   他はちゃんと漢字をつかえているのに。この平仮名と漢字にも意味があるのかもしれないな。
   えーっと、これはどういう順番で入っていたっけ?

少年:並びですか?えっと、確かこっちの便箋にはいっていたのは「うたをうたう」っていうのが1枚目。
   次に「わすれられません」っていうのがあって、その次が「すけるようなはだ」。
   最後に「お手紙お待ちしています」で終わり。そしてそっちの便箋が――

青年:待って。

少年:え?あぁはい。えっと・・・どうしましたか?

青年:今のをもう一度。便箋に書かれている1行文の冒頭。平仮名の部分だけを読んで。

少年:え?冒頭の平仮名だけ?まぁいいですけど。えっと・・・
   「うたを」「わすれられません」「すけるような」「おてがみ」これでいいですか?
   でも、これだけにしたところで意味不明な文ですよ。

青年:そんなことはない。意味のある言葉ができている。なんてことだ・・・。

少年:ええ!?先生にはもう意味がわかっているのですか!?

青年:ああ。答えはひどく単純なものさ。余計な情報が多すぎていささか難解にもとれたけどね。

少年:ど、どういう意味なんですか!?

青年:これらの文の2文字目だけを拾って読んでいってごらん。

少年:2文字目?えっと「うた」だから最初は「た」で・・・次は「わす」・・・「す」・・・
   「た」「す」「け」「て」・・・たすけて・・・?たすけて!?じゃ、じゃぁそっちのは!?


少女:(1枚目)
   うたを歌うあなたを、南区で見かけたので手紙を書きました。
   わすれられないのです、あなたの声が。
   すけるような肌や青い瞳をしたあなたの姿ばかりを思い出します。
   おてがみお待ちしております。

   わかっていただけますよね?


   (2枚目)
   ここから見える景色は以前かわりありません。
   いろいろ考えてみましたが、やはり私はあなたにもう1度会いたいです。
   あさからあなたのことばかり考えてしまうのです。
   これは愛だと思います。
   ふるい愛は捨てます。

   わかっていただけますよね?



少女:た す け て こ ろ さ れ る



少年:・・・!せ、先生・・・これって!

青年:いたずらにしては随分悪質だな。調べてみるか。どれ、まずは・・・差出人の特定からしようか。
   この手紙を運んだであろう人物を探そう。何か手がかりがあるかもしれない。いくぞ!

少年:は、はい!





使用人:お嬢様、こんなところにおいででしたか。

少女:・・・っ!ごめんなさい・・・でも私、これを書き上げなくてはならないの。

使用人:何を書いていらっしゃるんですか?

少女:・・・手紙よ。とても大切な。だから邪魔をしないで。早く書かなくてはいけないの。早く早く早く。

使用人:そうですか。それよりもお医者様がお探しでしたよ。早くお戻りになってください。

少女:わかってる、すぐにいくわ。でもお願い。ちょっとだけ待って。待って!

使用人:あまりお医者様を待たせてはいけませんよ。

少女:わかってるって言ってるでしょう!・・・ほら、もう書きあがったわ。
   ねぇ、これを情報屋に・・・情報屋なら誰でもいいの。お願い。情報屋に渡して。私を助けてほしいの。

使用人:お嬢様・・・また幻覚が見えるのですか?それとも幻聴?
    ここにはご主人様とお嬢様、それに私しかいないのですよ。ああ、今日はお医者様もいらしておりますが。
    何から逃げるというのですか?

少女:わかってる、そんなんじゃないわ!わかってる・・・わかってるつもり。ああ違うのでもお願い。
   あなたに少しでも良心が残っているなら、これを情報屋に渡して。
   ・・・大丈夫よ?もし見つかっても情報屋にしかわからないようにしてあげるから、お願い。

使用人:・・・はぁ。わかりました。お預かりいたします。ですからさぁ、ご主人様とお医者様のもとに参りましょう。

少女:絶対よ。絶対に届けてね。途中で捨てるなんて嫌よ?

使用人:そんなことはしませんよ、お嬢様。私を信用してください。

少女:信用しているわ。あなたは私に痛いことをしないもの。でも助けてもくれないわ。嫌な人。
   でも私の味方。ええわかっているわ。あなたはただの傍観者。私はかわいそうな犠牲者。
   私の味方は誰かしら。でもこれで私はきっと助けてもらえるわ。情報屋さんならきっと助けてくれる。

使用人:誰から助けて欲しいのですか?

少女:・・・誰かしら。

使用人:そうですか。では、参りましょうか。

少女:ええ・・・。



少女:たすけて ころされる



少女:わかって、いただけますよね?


2014/10/20



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